ACTION-9
うーん。おかしいなあ。
ロウソクの最後のきらめきの場合、その後、死ぬんだけどなあ。
いえ、死にたかった訳じゃないけど、覚悟はきめてたんだけどな。
あたしは生死の境をさまよった後、どうにか生き延びた。
その前の虐待で、体が弱っていたので、本当にきわどかったらしい。
警察はあの20分後に到着した。ライラがそこらの書類から住所を調べたおかげだ。
ボスの部屋に部下が押しかけてたけど、扉が破られる前に警官が踏み込んでくれたので
助かった。
スパイが判明し、捜査がマトモに進み出し、結局、組織は活動を停止した。
その前にボスが捕まっていたのも大きかった。
処理の前後の少女達はすぐに保護された。売られた少女も、少しずつだけど救助が
進んでいる。
もっとも、彼女たちの身体を元に戻す手段は、今の所ない。あたしも含めて。
捜査陣の身内は、必ずしも無事ではなかったが、これも可能な範囲で保護された。
ガルティの娘も保護された。ただ、彼女の精神の回復には時間がかかりそうだ。
あたしとライラは、実はたったの2週間監禁されていただけだった。
あんなに長期間と思っていたのに。
ライラは、毎日あたしを見舞いに来た。彼女は短期間の入院で済んだのだ。
やがて、あたしの身体の傷も、癒えた。それが可能な部分だけは。
海辺の家。
そのベランダで、あたしは車椅子に乗り、ライラと海を見ていた。
これは、ライラの母方の持ち家だそうだ。ライラの母側の祖父は、有数の資産家で、
その関係もあって、ライラの父親は裏の利益に屈する事無く、大捜査を開始できた。
逆に言えば、そうでなければ立ち向かうのも困難な相手だったのだ。
いい天気。海辺の風が気持ちいい。
あたしが退院すると、ライラはあたしを大事なお客様として、この家に連れて来て、
もてなしてくれた。
それが、昨日。
車椅子の少し前に居たライラが、あたしを振り返って、口を開いた。
「まりあ....ごめんなさい」
「何、あらたまってるの?」
「まりあの一生を台無しにしてしまったの....」
あたしは無茶のやり過ぎで、肩と腰を根こそぎ壊してしまった。
もう、義手や義足すら付ける事は出来ない。
でも、後悔はしていない。
ライラを守る為に、あたしが復活した時。
ライラの為に戦っている時。
あたしはまるで、一生の夢をかなえているかの様な、奇妙な至福感を味わっていた。
本当に、本当に、悔いはない。
それに、そもそも事件に関わったのだって、自分からだ。ライラのせいではない。
酷い事をされたのだって、ライラにではない。
それは何度も、くどい程ライラに伝えてあるのだが。
「だから...まりあにお願いがあるの....」
あれ?いつもと流れがちょっと違う。
「まりあのお世話を...ずっとさせてほしいの...」
そう言って、ライラはあたしをそっと抱きしめた。
事件のニュースは日本にも伝わった。あまり大きくは報道されなかったらしい。
まあ、大規模な買収組織の摘発程度では、そんなものだろう。
それに、組織の異様な性格は、わざと伏せて流されたから、余計だろう。
本当は売春なんて可愛い物じゃなかったんだけど。
兄にはほぼ完全な真相を伝えた。隠してもしょうがない。
見舞いに来た時は、まだあたしは入院中だった。
手足をなくした事を知ると、随分取り乱していた。ゴメンね、兄貴、心配かけて。
就職は駄目になった。というか、向こうが何か言う前にこっちから断った。
だって、この体でどーやって車の整備しろって?
だから....ライラの申し出を、あたしは、とりあえずという事で受けた。
当面、他に出来る事もないし。
それに、あたしの中ですべてが完全に整理できるまで、日本の友達に会わないほうが
いいな。
兄貴に会ってそれが判ったから。
あたしは自分で思っている程は、まだ冷静じゃないみたい。
さて。あたしのお世話って、けっこう一杯あるのよ。
あたしは自分では食事も出来ないし、風呂にも入れないし、トイレにも行けない。
行っても自分だけでは何も出来ない。拭く事も出来ない。
散歩どころか、ちょっとした移動もほとんど出来ない。ベッドに入るんだって、
自分だけではどうしようもない。
着替えだって無理ね。
背中が痒くても、もがくだけだし....あ、これは普通もそうか。
でも、孫の手は持てないの。
世話すると言う事は、そういった事全部をやってもらわなくてはならないの。
大変でしょ?
あたしの元の体重は、ライラより重い。今は同じか、軽いかな。
だから、ライラ一人であたしを運ぶ事は、かなり難しい。
彼女は、それでもなるべく自分だけで世話をしたがった。
一応補助の人も、同じ別荘に住み込んでは、いるんだけど。
湯船に湯を張る。日本人のあたしが泡風呂よりそれを望んだから。
ライラが、あたしの身体をスポンジでこする。
スポンジは石鹸つきだから、それをすると結局泡風呂になっちゃうんだけどなあ。
ライラは、慈しむようにあたしの身体を扱う。
なんかうっとりしてるみたいに....
あたしも、自分で触れないので、こすられると気持ちがいい。
「まりあ...きもち、いい?」
「うん...気持ちいい」
なんだかあたしも、うっとりと答える。
「よかった.....」ライラが微笑む。
ACTION-9 CLEAR