ＡＣＴＩＯＮ １
大学最後の夏休みは、奮発して海外旅行にした。
資金はバイト。ちょっとだけ兄さんに援助してもらったけどね♪
両親が早く居なくなったあたしは、観光旅行なんていった事が無い。
これが初めてかな？
見慣れない風景。でも、予習は一杯してきたから、迷う事はない。
あたしは船を下り、予約していたホテルに向かう。
で、いきなりトラブルに出くわした。
すごく可愛い美少女が、見るからに柄の悪そうな男達に追いかけられている。
道の向こうの出来事だから、見て見ぬふりを出来なくも無い。
けど、義を見てせざるは勇なきなりってね。
あたしが道を横切った時点で、少女は男の一人に腕を掴まれていた。
割り込んだあたしは、男の腕をねじ上げ、少女を開放させる。
少女はあたしの後ろに隠れた。あらら、なんだかナイトになった気分。
「何しやがる！邪魔する気か！」
男の言葉は訛りは酷いけど、十分ヒアリングできた。
「こういう場合は、女の子に味方するのが普通よ？」
わざと同じように訛って返してやる。
男の掴みかかってきた腕を、関節を打ち据えて無力化してから、足をかけて転ばせる。
体勢の崩れた男の背中の中心を蹴り、悶絶させた。
やりすぎかな？と思うけど、他の男達が次々向かって来てるから、確実に叩かないと、
あっという間に逆転されかねない。
６人を１分で倒した。まあ、こんなものでしょ。
振り向くと、少女はちゃんとそこに居た。
びっくりした顔で、あたしをまじまじとみつめてる。まあ、そうでしょうね。
で、その娘の手を掴んだ。
「どこに逃げればいいの？」
そう聞くと、我にかえった顔になる。
「こ．．．こっちへ」
手を引かれた。
．．．．．ホテルのチェックインは、まだ時間に余裕があるから、大丈夫よね。
ちょっと下町の、込み合った喫茶店。個室になるように簡単に仕切ってある。
そこで、少女は自己紹介した。
「ライラっていうのね」
「はい。．．．あなたは」
「市原まりあ。まりあでいいわよ」
「．．．．あの、強いんですね．．．．」
「ああ、さっきの？」
「荒事は得意な連中なのに．．．．」
「あたしを見て油断したからでしょ？」
これは結構あると思う。あたしは人に言わせると可愛いらしい．．．．
謙遜はやめよう。実際可愛い方だと自分でも思う。
でもって、おっきな胸と腰。細い腹。これも客観事実よ、数字でも出てるもん。
鑑賞用の体形で、実戦向きには見えないらしい。
別に巨乳だからって格闘能力に関係ないんだけどね。
趣味であたしに格闘を教えた師匠は、あたしの外見と技能のギャップは最大限に
生かすべきだと言っていた。でも、ほっといてもそうなってるんだけど。
「いえ、仕事じゃないの。あたしは学生で、今は観光旅行なの」
「そうだったんですか。．．．．ごめんなさい、迷惑かけてしまって」
「それはいいけど、連中は、何なの？」
「人身売買組織らしいの。あたしのパパが、彼らの組織の捜査を始めたの。」
「あなたのお父さんは警察の人なのね？」
「はい。で、彼らは捜査の責任者の身内を、誘拐し始めたんです」
「それはまた．．．えげつないわね．．．．」
ストレートな脅迫ね。
「それが分かってたから、早めに警察が保護してくれる筈だったんだけど」
「どうなったの？」
「彼らが来たの．．．．警察から情報が漏れてるの。内部に彼らの仲間が居るんです」
「うわ．．．．」
それはずいぶん．．．．酷い話だ。
「だから、その辺の警察に駆け込んでも、どうなるか分からないし．．．」
「それで．．．．あ、逃げるわよ」
「．．．え？」
「また来たわ」
さっきの男達を含む一群が、あたし達の居る席を目指してやってきた。
途中の仕切りを遠慮なくけちらす。他のお客さんが大騒ぎを始める。
あたし達は裏口から逃げ出した。
途中で４人ほど追いついたのは、あたしが蹴り倒した。
これはとんでもない事になってきた。
警察を当てに出来ない相手！？
．．．．．面白いじゃない。
あたしが子供の時。
まだ両親も居たし、弟も生きていた頃。
いつも見てたＴＶ番組があった。
正義の味方が活躍する、まあ、子供向けの他愛ない番組だったけど、あたしはそれが
大好きだった。
大きくなったら正義の味方になる。悪の組織と戦って、ヒロインを守るんだ。
．．．．どうも、自分が女の子だという事を理解してなかったようだけど。
一生懸命勉強したのも、格闘技を教わろうなんて気を起こしたのも、この想いが
どっかにあったんだと思う。
今、とんでもない悪が居て、それに狙われている可憐な美少女が居る。
これは．．．．．いま燃えなくて、いつ燃えるの？
旅行どころじゃない。やってやろうじゃないの。
ＡＣＴＩＯＮ-１ ＣＬＥＡＲ
