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ACTION-8

ライラはあたしの状態を見て、また泣き出した。
気持ちは分かるけど、それを時間が無いからと説得し、とにかく移動する。

ライラが加わったおかげで、ノブが回せるから、ドアが開けられるようになった。
それに、あたしと違って、地下室を多少は移動してるから、出口に関して見当が
付けられるみたい。

途中、見張りの男に2回出会った。
ライラがむしゃぶりついて動きを止め、体勢を立て直す前に、あたしが顔や首筋に
一撃を与え沈黙させる。
一人ずつなら何とかなりそうだ。

パイプは、何度も使ってるうちに、深くはまり込んだみたいで、もう手も足も、
ぐらぐらしない。
それにしても、竹馬移動は疲れる。痛みは慣れてきたけど。
でも出血は止まらないから、早く決着を付けなきゃ。

「この先なの...でも...あたし...行った事が無いから....」
出口が有るのは、このドアの向こうらしい。
「当たって砕けろよ」
あたしは陽気に言った。
出血と痛みで、ナチュラルハイになっている。
これが終わったら死ぬ。ロウソクの最後のきらめき。
きゃははは、正義の味方としては理想的ね。
....自己暗示、効きすぎてるかなあ?

「いい?もし敵がいたら、あたしが戦っている間に地上に逃げなさい。」
「だって」
「口答えはなし!二人ともまた捕まったら、速攻で殺されちゃうわよ。
 あなたが逃げれば、助かる可能性があるの。あなたのパパなり他の部下の人なりに
 連絡しなさい、いいわね?
 とにかく電話を探すのよ!」

捜査チームには、ガルティ以外にスパイがいないのはもう分かっていた。
あいつが連絡を全部途中で止めてしまう。道理でね....
でも、最近あいつはこっちに頻繁に来てる。そう、自分の娘を苛めに。
直接見てないけど、部下がそれを言うのを何度も聞いた。
....あの状況下で、それ覚えてるなんて、すごいじゃない、あたし。
誉めたげよ。よしよし。いいこいいこ。....あたし馬鹿?

「ガルティならすぐ電話を切るの。ガルティでないなら、少々無茶でいいから
 事情を全部話して来てもらうの。
 だめなら、連絡先を変えなさい。大使館でもいい。どこでもいい。わかった?」
「....はい...まりあさん....死なないで....」
「ふふふ、正義の味方を信じなさい。」

ドアを開けた。
見張りがいた。一人。
こっちを見た......
拳銃を持ってる。間に合うか!?

突っ込む。
「は??」
男はあたしの格好に、瞬間反応が遅れる。
それで充分。
鼻のすぐ下、人中にパイプが直撃した。
男が白目で倒れる。

「さ、そこから....」外へ.....!?

がーん。エレベーターじゃないの!しかも、鍵付き。
「そのドアを閉めて!」とりあえず時間稼ぎを。
「は、はい!」
カチャ。かちん。鍵もかけさせた。
「で、その男はエレベーターの鍵を持っていないの?」

ライラが探したが、持っていない。
このエレベーターホールには、もう1つドアがある。そっちの部屋かも。
ライラにドアを開けてもらう。

なんだか、贅沢な廊下。
あれ?見覚えがあるような.....

「あ、う!」
後ろでライラの声。振り向くと、ガルティが、ライラを後ろから抱え、頭に拳銃を
突きつけている。

「化け物.....」
険しい顔をしてこっちを見ている。
まあ、今のあたし、とんでもない格好なのは認めるけど。

「外道に言われたくないわね」
「化け物が....死ね」
拳銃がこっちを向いた。
ライラが隙を狙い、いきなり手に噛み付く。
「あぐあ!」
ライラが振りほどかれ、壁にぶつかり、倒れる。
でも、その間にあたしは距離を詰めていた。
全力で肩のパイプを叩き付ける。
ガルティの開いた口の中に、それは歯をへし折りながら突き刺さる。
あたしの肩の骨も、砕ける感触が有った。

後頭部を壁に叩きつけられ、ガルティの動きが止まる。
パイプを抜こうとした。
ぬちゃ...という抵抗があり、あたしの肩からパイプが抜けた。
パイプがはまり込んでいた骨が、砕けてしまったのだ。

ずるずるずるずる.....ガルティがうつろな目を剥き、口からパイプを生やした
まま、壁をずり落ちる。
.....殺しちゃった。
あたし、人を殺してしまった。
.....だめ、我に返っちゃだめよ、ここであたしが動けなくなったら....

ライラは?
「う...うん...」身じろぎした。
あ、よかった。壁にぶつかって気絶しただけみたい。
 

扉の開く音がした。
廊下の奥からだ。
「ガルティ、何の騒ぎだったん...」声が途中で止まった。

この声は。
あたしはそっちへ駆け出した。
「な..な...」
やはり、ボス!
開いた扉の内側で、驚愕した顔でこっちを見ている。
扉を締めようとする。

させるかあ!
一気に飛び込む。
部屋には、あの時あたしを抱えて運んだ、大柄な男。
他にボディガードは....いない!よおし!

大柄な男があたしを捕まえようと手を伸ばす。
その手より早く、残った方の肩のパイプを突き出す。
顔に当たり、鼻を削る。

「うぎゃあああああ!」
男は顔を押さえた。まずい、今の攻撃力で他の部分に有効打を与えられる?

ガウン!
拳銃の発射音。
あたしのお腹を熱い物がかすった。
咄嗟に反転。ボスが、なんだか不器用に拳銃を握っている。
かまうもんか!
こいつは絶対許さない!
それに、こいつを押さえればボディガードを牽制できるかも。

また発射した。今度はあたしの右をかすめる。
手首ごと拳銃を、パイプの先端で突く。
「があ!」
拳銃を落した。今の手応えなら、骨もやったみたい。

そして、パイプで、ボスの首をがつん!と突く。
ボスが机の向こうに吹っ飛ぶ。

よし、これで動けないと思う。ボディガードは....あれ?

あたしを狙った2発の銃弾は、大柄な男の腹と尻に当たり、そいつは苦痛で、のたうち
まわっている。
あたしは、首筋を突き、男の動きを止めた。
...なんだか、めまいがした。

「まりあ...まりあ...大丈夫なの...?」
ライラが追いついてきた。
「その...ドア...閉めて...」
「こう?」
厚さから考えて、防弾だし、少々なら篭城できるだろう。
「電話をかけなさい....そこにあったから...」
廊下に見覚え有るはずね。あたしが最初に目覚めた、ボスの部屋だもの、ここ。
「でも...ここの住所が...」
「逆探知して...もらうのよ.....」
「まりあ...顔色が....」
「あたしは限界.........いいよね...なんとか...なるよね?..
 正義の味方として...及第点....もらえるよね...」

もうバランスを保てない。床の上に仰向けに倒れた。
一気に視界が暗くなっていく。
「まりあぁ!!」
「はやく...でんわ.....しなさい.....」
「う、うん、だから、だからぁ、死んじゃだめ!まりあ!」
「はや.......」

ぱた。
意識がなくなる前に、首が倒れたのが分かった。



ACTION-8 CLEAR

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