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ACTION-2

その日はなかなか、めまぐるしかった。
食事する暇が無いほど。
とにかく来るのね。襲撃者が、後から後から。
町の人間が全部敵じゃないとは思うけど、何処に行っても発見されてしまう。

「パパは、例えあたしが捕まっても捜査は続けるはずよ」
「どうして?」
「ママは彼らの手にかかって死んだの。」
「.....」
「前にも捜査しようとしたら、脅しで誘拐されて...とてもひどい事されてるの、
 映したフィルムが送られてきたの....」
「捜査を止めたの?」
「ええ。でも、ママは.....撮影の直後に殺されてたの.....」
「え.....」
「証拠を片づけられた後になってから、遺体が見つかって...」
ライラが明るい口調に切り替える。
「あ、大丈夫。あたしはその時ほんの子供で、よくおぼえてないの」
「でも、それじゃ余計今回は...あなたのパパ、やりにくくない?」
「パパは連中を信じないわ。だから絶対捜査は止めない」
「連中はそれを知らないの?」
「関係ないんだと思うわ。見せしめだし、周りの人が影響されるから....」
 
 
「せいっ!」
飛び膝蹴りで、最後の一人をしとめた。
今回は大所帯。20人も居た。相手も本気だ。
さすがに一度に戦えない。細い路地に誘い込み、2人ぐらいずつを倒す。
数人は、格闘技の覚えが有るようで、相当手強かった。
まったく、か弱い女性二人に、何てことするの。ってか?

「ふ、ふう、さあ、行きましょうか、ライラ...?」

居ない。.....あ!
遠く離れ、口をふさがれて引きずられる少女の姿。
陽動作戦とは手が込んでるじゃないの!

車にライラが押し込められる。
あたしとの距離は30メートル。
車はドアを閉める前に発進した。走って間に合うか!?
視界に、真っ赤に錆びた鉄パイプが入った。
あたしは、それに飛びつき、全身を使って投げる。

パイプは、狙いたがわず、車の前輪タイヤとタイヤハウスの隙間に飛び込んだ。
タイヤが少し傾いた状態を、パイプが固定してしまう。

ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり.....!
真っすぐ走れなくなった車が、その場で一時止まる。
助手席の男がパイプを引きぬこうとする。

遅い!
追いついたあたしは、その男を後部座席のガラスに叩き付け、割れたガラスに慌てる
後部座席の連中を、ドアを開けて叩きのめす。
「ま、まりあぁ」泣きそうな顔のライラを引っ張り出し、残りの男を昏倒させて、
 その場を離れた。
「ごめんなさい、まりあに見とれてたら...後ろから急に...」
「早く気がついて良かった....次は注意してね、」

夜がふけ、町を脱出したころには、襲撃者は途絶えた。
ようやく一息つける。
あたしはともかく、ライラはもう、ふらふらだった。

無人の農家らしい家の物置に潜り込み、わらを敷いて眠る。
「さて....これからどうしようか...」
「パパの所に行ければ....」
ライラの「パパ」なら確実に信用できる。居場所も分かってる。
でも、連絡がまるで出来ない。電話が繋がる前に切れる。確実に妨害されてる。
直接行く事も出来るけど、でも、さすがにあれだけ邪魔されては.....
いくらあたしでも、町中でマシンガン、平気で乱射する連中が集団で集まってる所を
強行突破できない。
そりゃ、あたしとライラだけなら何とか抜けられるわよ、その程度の腕の自信はある。
でも、町中の人に、どれだけ被害が出ると思う?

あとは...
身内を誘拐されちゃったり、されそうになった部下の人たちなら、信用できるかな?

「それなら、ガルティさんがいいわ」
「どんな人?」
「パパの直属の部下の一人だけど、2週間前にお嬢さんが誘拐されたの。
 フェリアっていう子。あたしは面識はないけど...」
「その人には連絡できるの?」
「情報担当で、いっぱい連絡網をもってるの。パパより確実につかまるわ」
「じゃ、明日の朝、もう1度町に戻って、電話を探しましょう。こっそりね」

まだ暗いうちに動き出し、町はずれに戻る。
公衆電話を探した。

「...あ、ガルティさんですね?」
随分あっさりつかまった。なんだったんだ昨日の苦労は。
ライラと打ち合わせて、落ち合う場所が決まったらしい。あとは移動手段だけど...

タクシーを無作為に拾えば....どうかな?

これはハズレ。やってみたら、いきなり変な方向に走り始めた。
運転席とは仕切りがあったので、ドアを蹴りあけて脱出。ボロな車で助かった。
当たりが悪かったのか、そこまで手が回ってるのか不明だけど、2度目を試す気は
しない。

電車は却下。露骨に手下らしいのが見張ってる。
レンタカーも見張られてた。
車さえあれば、あたしは日本では免許を持ってるから、なんとか運転できるんだけど。
昨日の車を頂いとけばよかったなあ....

で、地道に歩く。ガルティって人に定期的に連絡を入れて、時間が遅れる事を伝えた。

途中、小規模な集団に4回当たった。なんとか撃退したが、えらく手強い。
はっきりと狙いを付けられた感じがする。
あたしですら名前を知ってる元ボクサーが現れた時は、真剣に驚いた。
たかが女子大生に叩きのめされた、向こうの方が、もっと驚いてたみたいだけど。
 

着いたのは、辺ぴなアパートの部屋。
コンコンコンコン。ノックを4回。
こん。1回返る。
コンコンコン。こんこん。
打ち合わせと回数が合った。ドアが開く。

「やっとたどり着いたんだね」
「はい、心配おかけしました、ガルティさん」少女がようやく笑顔を見せる。
「君がボディガードか」
ガルティという人が、あたしにも声をかける。

「ええ..まあ...」そういう事になるよね。
「なかなか強いらしいね」
「はい...すごく....」
少女が、ちょっと頬を上気させて答えた。荒事を思いだしたのかな?

「見掛けによらないという訳か」感慨深そうに、ガルティ氏がうなずく。
「あの...それで...ガルティさんのお嬢さんは....」
ああ、たしかこの人は、自分の娘を誘拐されたんだった。
「まだ行方不明だ.....それより、行こうか」

予定では、日本大使館まで連れていってくれるはずだった。
「パパ」に比べると、包囲されてないし、組織にもそれなりに影響力がある筈。
ただ、やたら遠いので、さすがに歩きでは無理が有る。

彼の車の後部座席で、あたしは拍子抜けを感じていた。
こんなもの?
いえ...別に惨劇を望んでいたわけじゃない。
でも、単なる与太者がうろうろしているだけなの?
そりゃ、強い襲撃者は居たけど、それだけ?
もっと凶悪な組織かと思ったんだけど。

隣に座っていたライラが、あたしに頭を持たれかけてきた。
眠っている。
安心したのかな.....

あれ?なんで....ガルティとかいう人..顔に何か付けている....の?
マスク...?
あれ....
あたしも眠気が.........

.....しまった...........

ACTION-2 CLEAR




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