「僕は南の島で愛する君と再会した。」
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<黒の3>
手術の傷が癒えた娘を連れ、私は自分用のクルーザーで、他に誰も連れずに島へと向かった。
そこで思う存分彼女を蹂躙するためだ。部下には当分戻らないと伝えてある。
しばらく使わなかったあの島には、もちろん他の猫少女は一匹もいない。
それでいい。これまでとは違う。この娘を愛玩するつもりなどないからだ。
逃げ場の無いあの島で、思う存分いたぶってやるつもりなのだ。
もし私を恐れ、隠れても無駄だ。
小さくても自然の島である以上、どこかに入り込んで見つからない事があリ得る。
だから猫少女には、特定の呼び出し音を聞くと、そこに行かざるを得ない衝動を仕込んである。
この娘が私を嫌がっても、音には逆らえない。
だが実は、多少自信がなくなっていた。
本当にできるのだろうか?
あの憎い女の娘ではあったが、彼女・・・麻里を見ていると心が揺らぐ。
いや、あの女の娘だからかもしれない。
私は過去、あの女を心底愛していたのだから。
まして、この可愛らしく改造されてしまった娘に、今更地獄を見せる事などできるのだろうか?
確かにこれまで、罪もない少女達を無残に改造させてきたのは私だ。
しかし、一度完成した猫少女を虐待した事はない。
したいと思った事がなかったし、それに飼い猫の事を思い出してしまう。
机の上に勝手に上がって、大事な書類をめちゃくちゃにした時、私は彼女を叩いた事があるのだ。
その時の哀しそうな泣き声が耳につき、以後2度と手を上げられなくなってしまった。
もちろん猫と人間は違う。
違うが・・・同じに扱おうとしてるのは、私ではないのか?
島に着き、クルーザーを港に泊める。
だが私は、なかなかクルーザーを出る気になれない。
「にゃう」
麻里が一声鳴いた。
私の足元でちょこん、と座っている。
彼女は、これまで作ってきた猫少女と同じに見えた。
私に奉仕したがる衝動を持ち、性的な行動に禁忌を持たず、そして自分が人間だと言う自覚もない。
憂鬱な目で、デッキの横に置いてある封筒を見た。
それは出発直前に届いた、あの女についての最終的な調査報告書だ。
総括だけはもう読んだ。
私を裏切った前後の状況まで、遡るのに成功したそうだ。
そう、もう結論は出ていたが、一応最後まで調査はさせたのだ。
しかしそれ以上を、なかなか読む気になれない。
結果は判ってるのに、またあの時の事を追体験したくはない。
封筒を取り上げ、娘に関する補足資料だけを選び出した。
異性との交友関係は、今の所ないそうだ。
当の娘に声をかける。
「マリ。これを銜えろ」
私はズボンのファスナーを開け、ペニスをだらん、と垂らしてみせた。
「にゃっ」
娘は嬉々として、それを口に含む。
この娘は手術の時に性器を確認し、はっきり処女だと判っている。
そしておそらく今、生まれて初めて男性のペニスを銜えた。
それでもまったく抵抗がなさそうなのは、これまでの猫少女と同様、薬と調教の結果だ。
そう、こいつは他の娘と何も変わらない。良くも悪くも。
「にゅふ・・・にゅ・・・」
資料を読む私のペニスを、麻里は一生懸命ペニスを舐め続ける。
その頭を、つい撫でてしまいそうになる。
それを堪え、まるで奴隷の様に奉仕させ続ける事にする。
気持ちは良かった。ようやく復讐を遂げているから、だろうか?
それとも、あの女そっくりの麻里に、こんな事をしてもらっているからだろうか?
報告書の中盤で、麻里を拉致した時の状況がまとめてある。
「・・・?」
拉致された時の麻里の所持品に、妙なものがあった。
私の古い写真だ。パスケースの中に入っていたそうだ。
古いといっても写真自体は保管状態が良くて、あまり劣化はしていなかったが、映っている私がまだ若い。
問題は、なぜこの娘がそんな物を持っているかという事だ。
消去法で考えると、本来は母親の所持品だろう。
ではあの女は、私の写真を保管していたというのか?
私は、ペニスを銜えていた麻里の頭をやや乱暴に引き離し、やめさせた。
「もういい」
「にゃふ・・・?」
「なぜこんな物を持っていたのだ?」
所持品が並べて写されている写真を見せながら、私は聞いた。
「・・・にゃ?」
判るはずはない。麻里にはこれまでの猫少女と同じ処置が加えてある。
個人的な記憶はあいまいになっており、それと今の現実とを比較する能力はろくにない。
彼女達は、現実に対して疑問など持てないのだ。
私は、何かがちょっと引っかかった。
「お前は・・・自分がこれからどうなるのかわかるか?」
「にゃう?」
「自分が誰だったか、覚えているか?」
「・・・にゃうー」
娘は少し考えこんでいる。
だめだ。この娘は自分の状況を理解できていない。
普通ならそれでいい。だがこの場合は逆効果だ
何故苛められるのか判らない動物を、一方的にいたぶって爽快感などあるか?
少なくとも、私にはない。
さもなければミルクを、つまり飼い猫を叩いた時、あんなに後悔はしなかった。
本当に復讐をしたければ、薬を与えるべきではなかった。
自分の身体が改造されたのを、理解できる状態でないと何の意味もない。
私は自問自答する。
何故、いつもの薬を与えた?
奴隷に成り下がった事すら自覚できない、惨めな状態にしたかったとでも?
それでは復讐にならない。
いや、この娘には屈辱を与えねばならない。命令を聞くようにしなければならない。
だから服従させる薬が必要だったのだ。
・・・本当にそうか?
それなら、意思に反して服従せずにおられない薬を、新たに作れば良かったではないか。
いや、だめだ。
最近、新しい薬を作るのが難しくなっている。私の頭の能力が落ちているのだ。
この娘の処置は急ぐ必要があったから、新しい薬を作っていたら間に合わない。
嘘をつくな。
ああもあっさり母親を殺す事は計算外だった。
焦らしてから、変わり果てた娘を見せれば良かった筈だ。
別に急ぐ必要はなかった。
カウンター薬を併用し、従来の薬を一部手直しして、2、3回作りなおせば、目的にかなう薬くらい出来たはずだ。
何故私は、普通の薬を与え、普通の処置をさせてしまった?
私はこの娘を、他の猫少女と同じように可愛がりたかったのか?
まさか。そんな馬鹿な。
だが自分は果たして、この娘に何をしたかった?
もちろん復讐だが、一体どんな復讐をしたかった?
いや・・・本当に復讐をしたかったのか?
考えてもなにも浮かばないまま、クルーザーから出て、麻里を給餌所に連れていく。
一度も来た事は無くても、彼女はそこがどう言う場所か判った様だ。
木の実が食べられる事や、近くのトイレの使い方も知っているはずだ。
別に不思議はない。男のペニスは舐めるものだと認識しているのと同じ、事前の教育の成果だ。
麻里はきょろきょろしながらあちこち見て回り、今は滝の水を気持ちよさそうに浴びている。
それは地下水脈から押し出されてくる水を使って作った、人工の滝だ。
人工と言っても、水自体は天然で、動力など使ってない。
むしろその水流で発電機を回し、餌場を監視するカメラを動している程だ。
私はそれ以上の、何を始める気にもなれず、彼女を残し、自分ひとりで船に戻った。
どうする。
いざとなったら、手が出せない。母親はあんなにも簡単に殺せたのに。
なまじ昔の母親そっくりだから手が出せないのか?
いっそ何事も無かったように、これまでの猫少女と同じように可愛がる?
そうできれば・・・何のためらいもなくそれができれば、いっそどんなに楽だろう。
できるはずがない。あの娘は唯一残った、復讐の対象だ。
それに、私にはそんな楽しみ方をする権利は無い。
麻里だって可愛がってもらえる権利などない・・・ないはずだ・・・ないだろう?
なるほど、そうか。
何もしなければいい。
この島は、もともと猫少女だけで暮らせるように設計してある。
それこそ何年放置しても大丈夫なほどだ。
だから、このまま置き去りにしてしまえばいい。
ひとりぼっちで放置され、自分が何者か理解できないまま、ただ朽ち果てていく。
それは、とても残酷な罰にならないだろうか。
それがいい。
わざわざ手を下す必要はない。
私は何故かほっとした。
ずいぶん気が軽くなった。
そう、このまま立ち去ろう。
娘の最後など見ることもない。
カメラも止めてしまえばいい。
さよならだ。もう2度と会う事はない。
仲間ひとり居ないこの島で、孤独に暮らし、孤独に死ぬがいい。
それが私の復讐にはぴったりだろう。
きっとそうだ。
私はもやいを解くため、船室から出た。
外には麻里が居た。
寂しそうに私を見ている。
いい気味だ。これからずっとお前は一人だ。
「にゃうぅ・・・」
切ない声で麻里が鳴く。
船室に戻りかけた私の足が止まる。
私は思い出す。そうだ、謎が1つ残っていたのだ。
それが気になるから、立ち止まってしまったのだ。ただそれだけだ。
だから、最後にもう一度確認しておこう。
私は船室に入ると、先ほどの写真を持ってきた。
麻里の目の前にかざすと、その一点を指差す。
そして、尋ねた。
「お前は、なぜ私の写真を持っているのだ?」
答は期待していなかった。
麻里はちょっと考える様子で、私と写真を見比べている。
麻里に与えたのは、2世代目の猫少女製造に使った、改良型の薬だ。
多少は思考能力も残っているし、学習能力もある。
だからつたない頭で、なにやら一生懸命考えているらしい。
いいだろう。考え終わるくらい待っていてやろうではないか。
そして麻里が、了解の表情を顔に浮かべ、私に一声言った。
やはり、それは質問の答ではなかった。