#1   #2    #3    ご挨拶

 
 髪の長いひと、短いひと。
 どちらもきれいな、きれいなひと。名前も知らない、きれいなひと。声を出さずにお話してる。
 ふたりは愛しあったあと。たっぷりたっぷり時間をかけて。
 四本のしなやかな腕と、四本のすらりとした脚をからめて。
 でも乳房は六つだったの。
 わたしも舌で、お手伝いしたから。
 首輪をつけて、お手伝いしたから。
 鈴を鳴らして、お手伝いしたから。

 髪の長いひと、短いひと。
 猫たちといっしょに暮らしてる。わたしは最後に買われてきたの、子猫が生まれてきたあとで。
 わたしを洗ってくれる腕。抱き上げて、用を足させてくれる腕。
 わたしを運んでくれる脚。わたし、じゃれつくの。
 わたしを載せてくれる膝。わたし、泣くの。
 わたしを可愛がる指。わたしをしつける手のひら。
 猫より世話はたいへんだけど、猫のやらないことでもするの。
 つけてる首輪はおんなじだけど。

 髪の長いひと、短いひと。
 とってもきれいで、やさしいふたり。時々なんだか意地悪だけど、いつもはとってもやさしいの。
 ふたりはわたしの声を知らない。わたしもふたりの声を知らない。
 でもふたりの指は、わたしを隅々まで知ってる。
 わたしの舌は、ふたりを隅々まで知ってる。
 ふたりは愛しあったあと。そしてわたしも、おんなじベッド。
 とっても広くて、立派なベッド。

 いつもなら、ふたりの会話は速すぎて、わたしはとてもついていけない。
 とても優雅な、きれいな会話、声を出さずにお話するの。
 でも今は、たっぷり愛しあったあと。
 ゆっくり、けだるく、お話してる。
 少しだけなら、わたしもわかる。
 おんなじ言葉は、使えないけど。

 胸を指してから、こぶしを鼻の前に。
 これは、気持ちよかったってこと。
 わたしの頭をなでてから、右手で左腕を、すっとなで下ろす。
 上手になったって、ほめてくれてる。
 わたしの頭をなでてから、右手で左手の甲をぐるり。
 ああ、可愛がってもらえる。嬉しい。
 人差し指を横に振って、手のひらを上に。
 どんなふうに。
 どんなふうにだろ。
 左手の上で、人差し指と親指をつまむ。
 ごほうび。プレゼント。
 あ、指文字はわからない。
 髪の長いひとがベッドから下りる。

 髪の短いひとが、まっすぐわたしに微笑みかける。
 下向きの両手がちょっと下がる。すぼめた左手の下を右手がくぐる。両手がわたしに差し出される。
 今日は、入れて、あげる。 
 違ったかしら。入れるって何だろう。

 ソーイングセット。バレーシューズ。ブレスレットとファッションリング。
 ペダルの軽い、かごのついた自転車。
 かわいい鈴の音、ちりちりん。
 むかしもらった、プレゼント。今はもうない、プレゼント。
 最後にもらったプレゼントは、今もつけてる、きれいな首輪。
 かわいい鈴の音、ちりんちりん。

 引き出しを開ける音がして、わたし振り向く。
 え…?

 まさかそんな…。

 そんなの、そんなの絶対無理…。
 髪の長いひとの手に、棒みたいなのが二本。黒くて太いのと、黒くて長いの。
 どう使うのかわかるけど、でも。
 あんなに太いのと、あんなに長いの、それにいぼいぼ、でこぼこしてる。
 コードみたいのが、伸びている。

 わたしは首をもたげて、唇をつくる。
 ゆっくりやれば、読んでくれるの。
 「む」、「り」、「さ」、「け」、「ちゃ」
 髪の短いひと、うなずくと、右手の指先で胸をたたく。左胸、右胸、ちょん、ちょん。
 大丈夫。
 わたしは必死で首を振る。
 「だ」、「め」、「は」、「じ」、「め」、「て」、「な」
 左胸、右胸、ちょん、ちょん。
 大丈夫。
 大丈夫じゃないよお。
 「ま」、「だ」、「む」、「り」、「お」、「ね」、「が」
 開いた両手を向かい合わせて、二、三度それを近づける。
 これはわからない。
 髪の長いひとが、わたしに棒をくわえさせる。

 ああきっと、柔らかいってこと。でもいぼいぼのとこ、すごく、すごく硬い。
 口をいっぱいに開けないと、くわえられない。
 長いほうは、喉の奥まで届いちゃう。これもあちこち、すごく硬い。
 ほんとにこんなのを…。

 髪の短いひとが、わたしの恥ずかしいところに顔を埋める。
 ああ、ああ、気持ちいい、でも待って、待って。
 わたしは首をねじって、髪の長いひとを見る。
 「い」、「や」、「こ」、「わ」、「れ」、「ちゃ」
 涙声になってるのは、このひとにはわからない。
 でも泣き顔はわかるでしょ?
 微笑んで、左胸、右胸、ちょん、ちょん。その指先がすうっと伸びて、わたしのお尻を揉みほぐす。
 左手がわたしの胸をつかむ。
 「お」、「ね」、「が」
 あああ、もうふたりとも、わたしの唇を見てない。

 テーブルの上には、黒豹さん。わたしのことを見下ろしてる。
 「みゃああ」
 助けて。
 「みゃあ、みゃあ」
 今この部屋で、わたしの声が聞こえるの、あなただけなの。
 「みゃあう、ああ、ねえ、助けて、助けてえ」
 目をぱちくりして、お顔を洗う。
 助けてくれないのね。
 言葉がわからないもの、仕方ないよね。
 あなたは、こんなふうに可愛がってもらったこと、ないよね。
 ああ、ああ。

 四つの手、二枚の舌。二十本の指に、唇二つ。ふたりがかりで…。
 ああもう、濡れてきちゃってるのがわかる。
 くちゅくちゅ、くちゅくちゅって、恥ずかしい音が聞こえる。
 後ろの穴に、それがたんねんに塗りつけられる。
 でも、どんなにしたって、あんなの、あんなの無理。
 裂けちゃうよお…。

 ああ、あてがわれる。
 わたしは観念して、からだの力を抜く。
 待って、二本とも、いっぺんに?
 わたしがこれからあげる悲鳴は、このふたりには聞こえない。黒豹さんが、びっくりするだけ。

 あ。
 あああっ…。
 こ、じ、あ、け、ちゃ、い、や…。
 



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