髪の長いひと、短いひと。
どちらもきれいな、きれいなひと。名前も知らない、きれいなひと。声を出さずにお話してる。
ふたりは愛しあったあと。たっぷりたっぷり時間をかけて。
四本のしなやかな腕と、四本のすらりとした脚をからめて。
でも乳房は六つだったの。
わたしも舌で、お手伝いしたから。
首輪をつけて、お手伝いしたから。
鈴を鳴らして、お手伝いしたから。髪の長いひと、短いひと。
猫たちといっしょに暮らしてる。わたしは最後に買われてきたの、子猫が生まれてきたあとで。
わたしを洗ってくれる腕。抱き上げて、用を足させてくれる腕。
わたしを運んでくれる脚。わたし、じゃれつくの。
わたしを載せてくれる膝。わたし、泣くの。
わたしを可愛がる指。わたしをしつける手のひら。
猫より世話はたいへんだけど、猫のやらないことでもするの。
つけてる首輪はおんなじだけど。髪の長いひと、短いひと。
とってもきれいで、やさしいふたり。時々なんだか意地悪だけど、いつもはとってもやさしいの。
ふたりはわたしの声を知らない。わたしもふたりの声を知らない。
でもふたりの指は、わたしを隅々まで知ってる。
わたしの舌は、ふたりを隅々まで知ってる。
ふたりは愛しあったあと。そしてわたしも、おんなじベッド。
とっても広くて、立派なベッド。いつもなら、ふたりの会話は速すぎて、わたしはとてもついていけない。
とても優雅な、きれいな会話、声を出さずにお話するの。
でも今は、たっぷり愛しあったあと。
ゆっくり、けだるく、お話してる。
少しだけなら、わたしもわかる。
おんなじ言葉は、使えないけど。胸を指してから、こぶしを鼻の前に。
これは、気持ちよかったってこと。
わたしの頭をなでてから、右手で左腕を、すっとなで下ろす。
上手になったって、ほめてくれてる。
わたしの頭をなでてから、右手で左手の甲をぐるり。
ああ、可愛がってもらえる。嬉しい。
人差し指を横に振って、手のひらを上に。
どんなふうに。
どんなふうにだろ。
左手の上で、人差し指と親指をつまむ。
ごほうび。プレゼント。
あ、指文字はわからない。
髪の長いひとがベッドから下りる。髪の短いひとが、まっすぐわたしに微笑みかける。
下向きの両手がちょっと下がる。すぼめた左手の下を右手がくぐる。両手がわたしに差し出される。
今日は、入れて、あげる。
違ったかしら。入れるって何だろう。ソーイングセット。バレーシューズ。ブレスレットとファッションリング。
ペダルの軽い、かごのついた自転車。
かわいい鈴の音、ちりちりん。
むかしもらった、プレゼント。今はもうない、プレゼント。
最後にもらったプレゼントは、今もつけてる、きれいな首輪。
かわいい鈴の音、ちりんちりん。引き出しを開ける音がして、わたし振り向く。
え…?まさかそんな…。
そんなの、そんなの絶対無理…。
髪の長いひとの手に、棒みたいなのが二本。黒くて太いのと、黒くて長いの。
どう使うのかわかるけど、でも。
あんなに太いのと、あんなに長いの、それにいぼいぼ、でこぼこしてる。
コードみたいのが、伸びている。わたしは首をもたげて、唇をつくる。
ゆっくりやれば、読んでくれるの。
「む」、「り」、「さ」、「け」、「ちゃ」
髪の短いひと、うなずくと、右手の指先で胸をたたく。左胸、右胸、ちょん、ちょん。
大丈夫。
わたしは必死で首を振る。
「だ」、「め」、「は」、「じ」、「め」、「て」、「な」
左胸、右胸、ちょん、ちょん。
大丈夫。
大丈夫じゃないよお。
「ま」、「だ」、「む」、「り」、「お」、「ね」、「が」
開いた両手を向かい合わせて、二、三度それを近づける。
これはわからない。
髪の長いひとが、わたしに棒をくわえさせる。ああきっと、柔らかいってこと。でもいぼいぼのとこ、すごく、すごく硬い。
口をいっぱいに開けないと、くわえられない。
長いほうは、喉の奥まで届いちゃう。これもあちこち、すごく硬い。
ほんとにこんなのを…。髪の短いひとが、わたしの恥ずかしいところに顔を埋める。
ああ、ああ、気持ちいい、でも待って、待って。
わたしは首をねじって、髪の長いひとを見る。
「い」、「や」、「こ」、「わ」、「れ」、「ちゃ」
涙声になってるのは、このひとにはわからない。
でも泣き顔はわかるでしょ?
微笑んで、左胸、右胸、ちょん、ちょん。その指先がすうっと伸びて、わたしのお尻を揉みほぐす。
左手がわたしの胸をつかむ。
「お」、「ね」、「が」
あああ、もうふたりとも、わたしの唇を見てない。テーブルの上には、黒豹さん。わたしのことを見下ろしてる。
「みゃああ」
助けて。
「みゃあ、みゃあ」
今この部屋で、わたしの声が聞こえるの、あなただけなの。
「みゃあう、ああ、ねえ、助けて、助けてえ」
目をぱちくりして、お顔を洗う。
助けてくれないのね。
言葉がわからないもの、仕方ないよね。
あなたは、こんなふうに可愛がってもらったこと、ないよね。
ああ、ああ。四つの手、二枚の舌。二十本の指に、唇二つ。ふたりがかりで…。
ああもう、濡れてきちゃってるのがわかる。
くちゅくちゅ、くちゅくちゅって、恥ずかしい音が聞こえる。
後ろの穴に、それがたんねんに塗りつけられる。
でも、どんなにしたって、あんなの、あんなの無理。
裂けちゃうよお…。ああ、あてがわれる。
わたしは観念して、からだの力を抜く。
待って、二本とも、いっぺんに?
わたしがこれからあげる悲鳴は、このふたりには聞こえない。黒豹さんが、びっくりするだけ。あ。
あああっ…。
こ、じ、あ、け、ちゃ、い、や…。