「壱万円ポッキリ」

その5


貯金残高を調べたら175万円あった。

引っ越しや新しいコンピューターを買うために貯めておいた虎の子。これで彼女を引き取れないだろうか?その時、私の頭はどうにかしていたのかもしれない。第一、芋虫少女をひきとって、どうしようというのだろうか?世話はどうするのか?将来の事は?しかし、あのときは、ただひたすらあそこから引き離すことしか考えていなかったのだ。

しかし、翌晩お金を引き出して店の前に行くと、そこに明かりはともっていなかった。あの店を教えてくれたM氏や知り合いのI氏によると手入れをおそれて場所を移動したのではないかということだった。あんなことをやっていれば確かにヤバイだろう。しかし、その後、あの店がどうなったのかは彼らをしても、ついに知り得ることは出来なかったようだ。雪はいったいどこへいったのだろうか?

彼女の事を話すとM氏もI氏も口を濁す。その様子を見て思った。彼らは、ともにそれ専用のホームページを立ち上げるほどの筋金入りの四肢切断愛好者だ。そしてあの店を教えてくれたのも彼らだ。ひょっとしたら、雪の腕を切断し何度も陵辱したのは彼ら自身だったのかもしれない。私だって良識者とはいえないだろう。しかし、雪をクスリ漬けにし、狩猟用ナイフでじわじわと腕を切り刻んでいく様を想像すると、胸の奥に鋭い痛みが走る。そのせいか、次第に彼らとのつきあいも遠のいていった。

「・・・・雪?」

あれから1年が過ぎていた。私は指輪を巡るファンタジー大作映画のプロモーションで渋谷大手本屋に来ていた。その近くに、輸入雑貨や装飾品をあつかっている小さな店がある。
帰り道、通り過ぎた時にその店の中に雪を見かけたような気がしたのだ。

よく見ればそれは精巧なマネキンだった。私はバカか?当たり前じゃないか。本物がいるわけないだろう?この店は以前通りかかったときにはショーウィンドウにあたまのない胴体だけの透明な模型が飾られていたのだが、今日飾られているのは、まるで生きているかのようなリアルなマネキンだった。腕も脚も根本から切断された胴体像。それにしてもよく似ている。肌も産毛の感触まであってまるで本物のようだ。
我慢出来ずに店内にはいってその表面を触ってみる。柔らかい・・本当にマネキンなのか?

「お客さん」

店内の品物を不躾に触りまくる私に向かって、店員らしき髭面の兄ちゃんが厳つい表情で近づいて来た。

「すいませんん。あのぉ・・・これ譲っていただけないですか?」

かなりの散財だった。しかし、そのおかげであのマネキンはいま私の部屋の中に・・
ベッドの上に横たわっている。あまりにそっくりなので、その製造元をたどれば、モデルとなったに違いない彼女の行方がわかるのではないかと思い、いろいろと調べた結果、このマネキンが蕪木流通という仲介業者を通じて入荷されたことまではさぐりあてた。しかし、方々に電話しても、そこから先、マネキンの由来はぷっつりと切れてしまうのだった。

「雪・・」

最近では毎晩それを抱いて寝ている。マネキンは・・・いやその作りはマネキンというにはあまりにリアルだ。水着の下には本物と見まがうほどに作り込まれた少女の裸が隠されていた。こぶりな胸の柔らかな感触、お尻の艶やかさと張り、そしてしっとりとした性器・・・触った具合もまさに雪そのものだった。

夢の中で少女を抱き、夢の中で少女と1つになる。

最近は、起きているときでも、時々彼女の声が聞こえてくるような気がする。

「おじさん・・また逢えたね・・・」

終わり  


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